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執筆者の写真Tsuda Outreach

NPO法人アダプティブワールド様


 

障害者スポーツ ” ≠ ” パラリンピック②

障害のある子どもたちに

スポーツを通じた「出来る」楽しさと「当たり前」を


 


 障害者スポーツに関わったことのある読者の方は、どれくらいいらっしゃるのでしょうか。恐らく関わったことのない方が大半なのではないでしょうか。普段なかなか触れることのできない障害者スポーツ。その現状と課題について、前回に引き続き、NPO法人アダプティブワールド代表の齋藤さんに詳しくお聞きしました。

 この記事が障害者スポーツについて考えてみるきっかけになれば幸いです。


 

<齊藤直さんプロフィール>

日本体育大学卒業。学生時代に、全米障害者スポーツセンターを訪れたことがきっかけで、日本の障害者スポーツの現状を知り、2005年 特定非営利活動法人アダプティブワールドを設立。全国各地の自治体や学校にて、講師を務める。






               「障害者スポーツの現状」



Tsuda Outreach(以下・TO):前半の記事で障害者スポーツについて学ぶ機会や場所がすごく少ないとおっしゃっていたと思います。これに関して月日が経って改善されたと感じられますか。



齊藤さん:まだまだです。確かに時代の流れでパラリンピックを目にするのは当たり前になっています。また今年は特にオリパラが東京で開催されたのもあり、さらに目にする機会が増えたと思います。ただ、障害者スポーツ=パラリンピックになってしまっているんですよね。知的障害の人がパラリンピックに出場するためには、身体的な障害よりも厳しい基準をクリアする必要があるんです。

 しかし、人口的に言うと、知的発達障害が8〜9割で…ゆえに知的発達障害の人もできるスポーツ環境を整えることがすごく大切なんです。僕たちが民間のプールや体育館を使って開催するのは、公共の場所でも当たり前のようにしていく必要があるからなんですよね。



TO:どうしても障害者スポーツに関する指導や知識が行き届いていないという状況が続いてるんですね。



齊藤さん:そうですね。その原因としては指導者が少ないというのが一番ですね。現状では、障害のある人のスポーツとなると自分以下だと認識する人たちが多くいるんです。例えば、インターハイに出ている高校生に水泳を教えてくださいと言われると、多くの人は尻込むんですね。でも、障害者スポーツとなるとほとんどの人が自分以下であると捉えるので、できると思ってしまう。しかし、このような人たちはできなかったり、自分のやり方しか方法論として知らなかったりする人が多い。となると、コーチとしてスポーツのやり方を伝えることができなかったり、その人の教えられる内容と生徒の教えて欲しい内容が適合しなかったりします。

 この、教えられることと教えて欲しいことをつなげる仕事を僕たちがやっていければいいなと思い、現在、指導者の方もボランティアなどでたくさん募って、伝え方や指導案の作り方のお手伝いをしています。




「まだまだ厳しい日本での普及状況」


TO:アダプティブワールドさんは障害者スポーツの普及に積極的に活動を進められていますが、日本全体での普及の具合はいかがでしょうか。



齊藤さん全く進んでいないと思います。この活動を正式に始めて来年で20年になるのですが、同業他社は一つも出てきていないです。

 僕は同業他社が出てこないのは大問題だと思っています。その理由として、それが一つの仕事として確立されていないことがあるんですよね。

 ただ、スポーツというのはこれからどんどん学校から外に開かれていくものであると思うんです。そのような意味でも指導者を育てていくのはこれからの僕たちの大きな仕事の一つなのかなと思っています。



TO:20年間精力的に活動されていてもなかなか進まないというのは、問題はそれだけ根深いってことですかね…



齊藤さん:そうですね。ただ、これは僕たちが頑張ればどうにかなるということではなくて、社会も重要なんです。例えば、アメリカではNPOがイベントを開催するとなると、コカ・コーラやマイクロソフトがイベントレポートを求める代わりに安価で飲み物を提供してくれたり、中古のパソコンを譲ってくれたり、といった感じで皆で支えていくというのがNPOの土台にあるんです。しかし、日本では基本的にそのようなことはありません。NPOがどのようなものなのかも認識されていませんし、お金・参加費を取りますと言うと、「え、NPOなのに?」となるんです。


 

TO:日本企業は結構CSR活動やSDGsとかを謳っている割何をしているの…と個人的には思ってしまいます。



齊藤さん:そうですね。企業との連携や公教育の中にも組み込むなど、NPOの活動をより社会的にしていくことが重要なんです。そのためにも、僕たちが独りよがりにならずに一緒に広報を手伝ってくれる人などを集めていく必要があります。普段のブログレポートを書く、チラシを描くといった地道な広報を通して存在を発信することが欠かせません。

 ただ、本当に必要としている人に出会えば活躍できるNPOはいっぱいあるはずなのに、多くのNPOはそのような広報活動がすごく下手なんです。そのため、僕たちはそのような人たちを見つけながら、協力して一緒にやっていくことが必要だと思っています。




「海外の障害者スポーツ事情」



TO:前半ではアメリカの事例をたくさんお伺いしたのですが、アジア諸国やヨーロッパ諸国など、他の地域での障害者スポーツの状況はいかがでしょうか?



齊藤さんヨーロッパの中でも、ドイツは障害者スポーツ先進国と言われています。ヨーロッパに多い、税金が高い国では福祉のサポートがすごく充実しているんですね。ゆえに、障害者スポーツも充実しているんです。

 一方で、他のアジア諸国で障害者スポーツの普及が進んでいるという話はあまり聞きません。そのせいか遠く台湾から足を運んでくれる家族も3、4組います。



TO:台湾から来る人は、どこから情報を仕入れているのですかね?急に問い合わせが来る感じなのでしょうか。



齊藤さん:急に来る感じですね。英語でも大丈夫だと思うのですが、そんな本気で書かなくても、と思ってしまうくらいにブワーっとGoogle翻訳にかけたような日本語で来ます(笑)



TO:Google翻訳を駆使してまで必死にやりたいという思いがあるんですね。そのような状況を考えても、発信していくことの重要さを感じますね。



齊藤さん:そうですね。発信の方法の一つとして、まだ構想の段階ではあるのですが、SASUKEのような一般の人が出られる大会のパラリンピックバージョンをやってみたいと考えているんです。例えば、スポンサーがつけば中継が入ります。その大会の状況を中継すれば、他の人にも「障害者もこんなことができるんだ」ということも伝えられますよね。

 このように「発信する」という意味では、僕らが障害者専門になることには意味はないんです。代わりに、障害者でも参加できる社会の土壌を作る専門家になることには大きな意味があると思っています。ゆえに、僕たちが出向いていくのは全部健常者の大会です。そこで僕ら(障がい者)も出ていいですか、といった提案をしてみたりしています。このような活動の中で一緒にやりたい人が現れたら、その地域の人たちが自分たちでできるように、地域ごとに指導者を作っていくというのはすごく現実味のある方法なのかなと考えています。





「普段とコロナ禍での活動」



TO:普段はどこを拠点に活動されているのでしょうか?



齊藤さん:普段は障害者スポーツセンターのある東京の多摩地区の稲城市を中心に活動しています。また、僕たちが通っていた日体大のある世田谷区や、埼玉県の大宮の障害者スポーツセンターの周辺でも活動をしています。東京と埼玉に3つくらいメインの拠点がありますね。空いているプールや、雨が降っている時には高架下公園という高速道路や鉄道の高架下の公園で活動しています。



TO:では、コロナ禍での状況はいかがでしょうか。



齊藤さん:コロナ禍で一番困っているのは施設が開かないことです。障害者スポーツは真っ先に閉まってしまいますから。開いたとしても、予約となると障害者が予約する当日に行ってもあまり使えません。

 また、会場を確保できて実際に指導する際には、コーチ側がマスクをするようにしています。





「20年後には解散していたい?!」



TO:来年20周年とおっしゃっていましたが、この活動を通して何か変わってきたという実感や、嬉しかった体験があればぜひ教えてください。



齊藤さん:やはり、僕たちと出会って良い影響を受けてくれた親子にたくさん出会えているのは本当に嬉しいことです。しかし、これが僕たちにしかできないという現実は大きな問題だと思っています。

 また、現実問題として無料では質を維持できないため、色々なところに少しずつでもサポートしてもらうことで、障害のある人たちが自ら選択・体験して、その体験をきちんと次に繋げられるような基盤を日本の中でいくつか作りたいです。そして、そのメソッドをアジアなどの国に出していくことができたらこんなに嬉しいことはないです。



TO:私たちにお手伝いできることはありますか?



齊藤さん活動に関係する方法というのは一つではありません。もちろん、スポーツスキルがある人は直接指導に関わることができます。ですが、それ以外にもNPOやボランティアの活動を紹介するなどといった方法もあります。

 多様な関与の仕方があるという点から、NPOというのは様々な人たちも参加してくれる機会を作るのがとても重要だと考えています。皆さんには、僕たちの発信し続ける参加の方法をキャッチしてもらって、自分なりにこんなことをやっている団体があるんだと発信してもらえたら嬉しいです。



TO:最後に今後の展望を教えてください。



齊藤さん:理想は僕らが生徒と指導者を繋ぐための活動していなくても、障害のある人たちが馴染むことのできる世界です。次の20年ではその理想を実現するために活動していきたいと思っています。



TO:確かに、アダプティブワールドさんがいなくても問題ないくらい、障害者スポーツが当たり前になると良いですね。

 本日は貴重なお話をありがとうございました!




〜あとがき〜

筆者は障害者スポーツとは関わりのない生活を送ってきました。パラリンピックもテレビをつけて放送されていれば見る程度で、なかなか自ら進んで見ることはありませんでした。しかし、今回の執筆を通して障害者スポーツの現状を知り、自分の見識の狭さを反省しました。

多くの方は、私と同じように障害者スポーツに直接関わる機会はそうそうないのではないでしょうか。もしもこれを機に興味を持ってくださった読者の方がいらっしゃったら、ぜひアダプティブワールドさんの活動に参加するなど、何かしらの活動をしてみていただきたいです。私も今後、何かしら力になれるように努めていきたいと思います。




 

<アダプティブワールドさんの活動一覧>



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文:望月寧々(津田塾大学総合政策学部1年)







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