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執筆者の写真Tsuda Outreach

一般社団法人 Japanese Film Project様

更新日:2023年5月23日




 

持続可能な映画制作へ


データから見つける新しい映画業界の形


 




労働問題やジェンダーギャップなど、日本の映画業界は世界的に遅れている。


そこで、「意思決定層」からではなく「労働者側」からの視点で調査を行っている一般社団法人Japanese Film Project。今回は、団体設立の経緯や活動の経験などについて歌川さんにお話を聞いた。



<歌川達人さんプロフィール>












映像作家・アーティスト。主にドキュメンタリーのフィールドで活動する。短編ドキュメンタリー「時と場の彫刻」がロッテルダム国際映画祭2020、Japan Cuts 2020で上映される。ドキュメンタリー映画『浦安魚市場のこと』が2022年12月より劇場公開。JFP代表理事。





映画業界に残る問題解決のために



Tsuda Outreach(以下・TO):まず、団体を設立した経緯と活動内容についてお聞かせください。


歌川さん:団体自体は去年の夏に3人のメンバーから任意団体として始まり、今は非営利型の一般社団法人としてメンバーも増えて活動しています。


団体を設立したきっかけは、自分が映画制作現場で働いていた経験からです。その時に、酷い労働環境に限界を感じてキャリアを変えたことから、映画業界の問題解決に取り組みたいと考えました。

TO:では、そこからすぐに団体を設立されたのですか。


歌川さん:いいえ。20代は、同じ目的を持って活動している先輩の手伝いを裏方で頑張っていたのですが、議論だけで肝心のアクションは起こそうとはしないんですよね。正直それにイライラしていました。


もっと意義のあることをしたいと思った時に、アムステルダムの「アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭」で、 「Data is Beautiful」というシンポジウムを見かけました。


TO:そのシンポジウムはどのような内容だったのでしょうか。


歌川さん:ドキュメンタリー映画制作に関わるアラブの女性たちが、アラブ系のドキュメンタリー映画制作者が置かれている現状をデータで可視化して問題提起していました。そこからヒントを得て、データで問題を可視化し、映画業界のジェンダー問題や労働問題の解決に取り組む活動を始めました。アメリカや韓国などの調査事例も参考にしています。


TO:海外での経験も一つのきっかけとなったのですね。




監督ではなく、スタッフの声を聞く



JFPの記者会見の様子


TO:次に、活動する中で大切にされていることはなんですか。


歌川さん:議論したことをしっかりアクションへ結びつけることも大事ですが、もう一つ念頭に置いているのは、「インクルージョン」です。


映画などのクリエイティブな業界ではよくダイバーシティの大切さが謳われますが、実際に多様性を確保できているかは疑わしいです。また、ダイバーシティといえば日本だと性別の話だと思われがちですが、そうではなく、人種、年齢、キャリアなども多様であるべきで、それら全体がインクルージョンの問題と繋がっていると思います。


TO:ジェンダーギャップだけではなく、インクルージョンが重要なんですね。


歌川さん:そうですね。様々なバックボーンを持った人と活動することで、よりクリエイティブな活動ができると思ってます。実際にジャーナリストや現場スタッフもJFPの活動に参加してくれています。


加えて、映画業界のエコシステムを考えるときに、誰にマイクを向けるべきかも考えました。

今までは、監督ばかりにマイクが向けられていました。例えば労働問題で苦しむのは多くの場合が現場のスタッフなのに、その人たちには何も聞かずに話題が終わってしまい、根本的な解決には至っていないように思います。


その反省から、調査やインタビューをするときは意識的に現場スタッフや有識者にマイクを向けるようにしています。


TO:おかげでより具体的に議論が進むようになったのですね。




活動を通して感じた壁



TO:実際に現場スタッフの方にお話を聞くと、断られることもあったと思いますが、活動の中で壁となったことは何ですか。


歌川さん:実際に活動して感じたのは、透明性の問題です。


映画業界に限った話ではないのですが、日本ではデータに透明性がない場合が多いと感じています。


映画の興行や契約に関するデータも、大きな一部の団体だけがアクセスできて、その結果も一部の団体が公表するので、そのデータの精度がどれだけ高いかは実際には分かりません。正しいデータから業界の構造的な問題を考えるためにも、独自に調査をする必要がありました。


TO:そこから現場の方へのアンケートを始めたのですね。


歌川さん:はい。ただ、ここで問題になったのが映画業界の構造です。


日本で労働や女性差別問題の議論が中々進まないのは、被害者側に問題があるからではなく、構造的な問題だと考えています。


欧米諸国では一般的であるユニオンや第三者機関が日本にはない場合が多いです。そのせいで、声を上げると仕事に悪影響が出る懸念があって、アクションを起こすことが難しくなっています。

変えるモチベーションを持っている人はたくさんいるのに、構造的に排除されてしまってるように感じます。


TO:そのような問題を解決するには、今後どのようなことが必要でしょうか?


歌川さん:まずは、独立した相談窓口や機関が必要だと考えています。映画業界で浮上している労働や性加害の問題などは、当事者間で解決できないものがほとんどですが、現在は課題処理をする団体や窓口がほとんど存在しない状態です。課題解決のためには、当事者だけではなく、仲裁に入る独立した機関や被害者側の支援団体は必要不可欠だと思います。


そういった機関が設立された上で、声の上げやすい業界の体制に変わっていくべきだと考えています。


TO:欧米諸国ではユニオンが一般的であるということでしたが、他国と日本に差ができた原因は何だとお考えですか。


歌川さん:映画業界に限らず、欧米諸国に比べて、日本はあらゆる業界でユニオンや業界団体が少ない傾向があると専門家から聞いたことがあります。加えて、映画業界に関して言えば、お金の問題も大きいと思います。


例えば、韓国はKOFIC(映画振興委員会)という組織が、金銭面を含めた様々な面で労働者をサポートしています。それと比較すると、日本の行政や映画業界は、サポートの仕方もサポートする金額も不十分だと思います。


資金がないと業界の環境を改善するために具体的なアクションを起こすことができないので、結果として他の国よりも体制的に遅れをとってしまったというのも、実務的な問題としてあると思います。


TO:なるほど。独立した機関が必要な一方でそのための資金がないという悪循環があるのですね。




JFPによる調査結果のまとめ



データによって生まれた変化



TO:今までの活動から実感できた成果は何ですか。


歌川さん:実際に図ることができないので成果は分かりませんが、自分達のデータを様々な媒体で引用してもらえるようになったように思います。


今年の3月に映画業界での性加害の問題が取り沙汰された時、自分達のデータが様々な場面で広く引用されました。そこから議論が広がっているのを見て、少し変化があったと感じました。

また、データを引用して議論されること自体が団体を設立した去年の夏には見られなかったので、ファクトに基づいて、誰でも声をあげられる状況になってきた事はポジティブなことだと思います。


TO:データによって問題が可視化されたのですね。




新たな映画業界へ



TO:最後に、団体としての今後の展望をお話いただけますか。


歌川さん:団体を始めて一年経ちましたが、これほど多くの方々に活動を支持していただけると思っていませんでした。

多くの方にアドバイスをいただきながら成果も感じて、自分達のやり方は間違っていなかったと感じる場面も多々ありました。今後も変わらず、目先の評価にとらわれず、データをもとに業界が良くなる方法を長期的に考えていきたいと思っています。


また、調査の次の段階として、業界全体の意識改革のために専門家によるオンラインの勉強会も開催しています。


私たちも含め、映画に関わる方々だけではなく、「働くを学び、考える」きっかけになれば嬉しいなと思います。



TO:なるほど。データで示すだけでなく実践的な活動もはじまるのですね。お話いただきありがとうございました。




〜Japanese Film Projectさんからのメッセージ〜


映像業界のジェンダーギャップや労働環境の問題は映像業界だけの問題ではなく、広く社会的な課題だと考えています。なぜなら現代で生きる私たちは、あらゆる場面で映像に触れ様々な影響を受け生きているからです。


JFPの調査を社会的なイシューとして、私ごとのように受け取って頂き、TwitterやnoteなどでJFPの活動をフォローして頂けると嬉しいです。



JFPさん主催の専門家によるオンライン勉強会: https://joint.jfproject.org/




〜あとがき〜


映画に関するニュースを見ていた中で、映画業界に広がる問題を深く考えたいと思ったのが取材のきっかけでした。

今回の取材を通して、業界全体としての変化が求められる時期にどのようなアクションが必要なのか、実際の現場の状況など、貴重なお話を聞くことができました。それと同時に、自分が身近な存在である映画に無関心だったことにも気づくことができました。身近であるからこそ、業界自体の問題には気づきにくいこともあると思います。

この記事を読んで、今後のより良い映画のためにも、問題意識を持つ方が増えると嬉しいです。




<Japanese Film Projectさんの活動一覧>



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JFPさん主催の専門家によるオンライン勉強会: https://joint.jfproject.org/


Japanese Film ProjectさんのHP:https://jfproject.org


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文:大澤 陽(津田塾大学総合政策学部一年)

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