うちの企業、ブラック企業じゃないの?
権利を侵害された当事者が主体となり
権利行使するための声を上げる
アルバイトや仕事の際中に、自分が権利侵害にあったのではないかと感じたことはありますか? あるいは権利侵害を受けたにもかかわらず解決方法が分からない方や、労働現場で自分の権利をどのように行使すべきか迷う方もいるでしょう。NPO法人POSSE(ポッセ)は、誰もが安心して生活し、働くことができる社会を目指して、労働や貧困問題に取り組んでいます。今回は、事務局長の渡辺 寛人さんと、大学生ボランティアの岩本さんに取材をさせていただきました。
<渡辺 寛人さんプロフィール>
NPO法人POSSE事務局長/雑誌『POSSE』編集長、渡辺寛人。2009年よりPOSSEに参加。東日本大震災以降、仙台POSSEで被災地支援活動を行う。現在は事務局長として相談活動に携わりながら、雑誌POSSE編集長として情報発信を行っている。
「NPO法人POSSE」とは?
Tsuda Outreach(以下・TO):まずは、NPO法人POSSEがどのような団体なのか簡単に紹介してください。
渡辺さん:POSSEは「非正規が増えたのは若者がだめになったからだ」といった若者バッシングに対抗し、若者自身の手で労働の権利を実現していくために2006年に立ち上げられたNPOです。今は東京都と仙台にある事務所を中心とし、残業代未払・セクハラ・パワハラなどの法行為に直面している若者の労働の権利行使をサポートしています。主な活動は労働相談で、相談を通じて明らかになってくる企業や社会問題を社会に発信し、問題解決も同時に目指しています。
渡辺さん:近年力を入れて取り組んでいるのは、マイノリティと呼ばれる人たちの問題です。女性や、近年増加傾向にある外国人労働者、セクシャルマイノリティの人たちにフォーカスしています。またクルドの人たちに対する支援にも取り組み始めています。
TO:POSSEの実践的な活動内容としては何がありますか?
渡辺さん:2012年、相談分析をまとめて告発した「ブラック企業」という新書を出しました。これが当時ベストセラーになり、様々なメディアで取り上げられ、多くの人がブラック企業を知るようになっていく一つのきっかけになりました。みんな働きながら一度は「うちの企業、ブラック企業じゃないの?」っていう問いを頭の中に思い浮かべたことがあるんじゃないかなと思います。その問いは、会社が違法行為を犯しているかもしれない、との意識をもたらし、これが人々の権利行使に繋がっているので、非常に重要であると思います。
岩本さん:最近では技能実習生の女性が妊娠したと管理団体に伝えたら、管理団体に「中絶か帰国しなさい」と求められた事件がありました。それに対して会社と管理団体を相手にして、女性が技能実習生であっても、安心して育休・産休を取れるような環境を整えるように、勧告しています。
「 "声をあげる"ことへのハードル」
TO:「権利行使をする」の意味は何ですか。
渡辺さん:第一に、自らの権利を守るには、権利を侵害されている人自身が声を上げなければなりません。例えば、みなさんに未払賃金がある時、私が代わりに助けてあげることはできないので、皆さん自身が取り返したいという意思を持って行動する、POSSEはそれをサポートするという関係です。
TO: 相談に対応するときハードルになるのは何ですか?
渡辺さん:権利を行使する上で大事なことは、「本人が権利を行使したいと思う」ことです。相談に来た時の一つの大きなハードルは、「会社に請求しないといけません」と言われると、周りの同僚にどう思われるんだろう、店長怖いなとか、そういう人間関係を気にして、なかなか自分が声を上げるのが怖い、嫌だ思う人が多いことです。自分が矢面に立ちたくない、と消極的になる人が多いです。そこをまず説得していくことが第1に必要になってくるんです。
第2のハードルは、権利行使していこうってなった場合に、客観的な証拠がないと証明できないことです。だから、その本人がやる気になった上で証拠集めをする必要が出てきます。これは外国人労働者の方がハードルが高い場合が少なくありません。一つは言語の壁です。専門家とつながったり相談をしたりすることが日本人以上に難しいことが多い。次に、在留資格上の問題です。外国人労働者の場合、仕事を失うと、在留資格を喪失するリスクに晒されてしまいます。だから、会社に対して権利行使をするよりも、次の仕事を早く見つけなければなりません。
3つ目は、最後まで諦めずに闘い抜くことです。早ければ1回の交渉で終わることもありますが、会社が言い逃れをすると半年程度時間がかかることもあります。途中で本人が諦めてしまうと、権利行使もその時点で終わってしまうのです。だから生活保護制度や雇用保険、失業保険などを活用して、生活が成り立つように生活のサポートもしています。それから技能実習生の場合は会社の寮に入ってる場合が多いので、入れる部屋を探して家のサポートをしたり、食料のサポートをしたりなどの生活面のサポートもしながら、ちゃんと最後まで闘い抜けるようにします。
「コロナ禍での活動」
TO:コロナ禍で、相談件数や相談内容に変化はありましたか?
渡辺さん:コロナ前は相談件数が2000件ぐらいだったのですが、コロナ以降は3000件~4000件近くまで相談が増えている状況です。典型的な特徴として、女性からの相談が3分の2。雇用形態で見ると7割が非正規なんです。非正規からの相談、そして女性からの相談がすごく増えました。
TO:そういう実例が増えた理由は何ですか?
渡辺さん:一つは、コロナが始まったばかりのときに学校が一斉休校を行ったことです。そのため、家で子供たちを誰かが見なければならなくなり、それでパートで働いていたお母さんたちが休業して対応せざるを得ない状況になりました。そのときに一応国の方でも子育て・育児のために休業する場合は、補助金を出す仕組みを作りました。しかし、結局、一部の企業は補助金・休業手当を払うことをためらい、休業補償を全くしない状況が広がりました
もう一つは、今回のコロナで大きな影響を受けたのは、接客を伴う飲食や小売などのサービス業や介護・保育などの福祉業界アが中心でした。仕事が激減してしまったこともあれば、あるいは逆に、コロナなのに働かなければならない状況もありました。そしてこの業種に就くのは、女性の非正規雇用が多いので、その分影響されやすかったことになります。
また、この20年で男性の賃金も下がってきて、女性が働きに出ないと家計が成り立たなくなりました。その女性たちが従事しているのがケアなどのサービス業です。このケア部門では、ここ20年で女性が非正規として雇用される構造が出来上がりました。この非正規という不安定な雇用形態のもとで責任を負わされてきたにもかかわらず、コロナのような危機が起こると、「あなたは養ってくれる夫がいるでしょ」というように都合良く扱われ、解雇されてしまいます。非正規雇用を増やして女性を組み込み、安い労働力として活用、成長してきた日本経済の問題が、コロナによって、明らかになったと言えるでしょう。
「今後の課題」
TO:NPO法人POSSEさんの今後の課題を教えてください。
渡辺さん:上から社会を変えていくのは無理だと思うんです。社会を変えていくためには、自分たちで声を上げて、権利を主張して戦っていく必要があります。しかし、残念ながら日本は声をあげると叩かれたりバッシングを受けたりする社会になっています。
サービス経済化が進み、そこでは女性が中心的な労働力として活用されています。ところが女性は今の経済的状況で周辺化されて差別されている構図があって、だからこそ女性が声を上げていくのがすごく大事だと思います。それによってこれまでとは全然違う社会のあり方が見えてくると思います。なので女性・外国人労働者・マイノリティが主体的に社会を変えようとしている動きを、これからZ世代がどのように引き継ぎ、またその文化を作っていけるかが、一番の課題だと思っています。
TO:お話いただきありがとうございました!
〜NPO法人POSSEさんからメッセージ〜
NPO法人POSSEでは、大学生が中心となって、日本の労働・貧困問題に取り組んでいます。「学生だから何もできない」と思う人も多いのですが、むしろ比較的自由に時間を使える学生だからこそできることがたくさんあります。貧困の広がりや外国人労働者の人権侵害など、さまざまな矛盾を前にして「どうすればいいのだろう」と途方に暮れる前に、ぜひ実践の現場に足を運んでみてください。きっと得られるものがあると思います。
〜あとがき〜
日増しに深刻化する非正規雇用問題と失業難の中で、アルバイトは次第に増えているのに、いざ自分が労働法の適用を受けるという事実を知らず被害そのものを認識できない場合が多いです。 一方、労働者個々人、団体が自らの権利を主張することに対する否定的な視野も存在します。皆が安心して働ける安全な勤務環境づくりのためにどのような変化を生み出すかは、今の世代の前に置かれている重要な課題ではないでしょうか。
<NPO法人POSSE・ボランティア募集中!>
NPO法人POSSEでは活動に参加してくれる学生・社会人メンバーを随時募集しています。活動に参加したい、活動の内容を詳しく知りたいなど、どんなことでもお気軽にご連絡ください!
ボランティア募集特設サイト:https://possevolunteer.tumblr.com/
<POSSEさんの活動一覧>
POSSE・HP:https://www.npoposse.jp/
POSSE・ブログ:https://blog.goo.ne.jp/posse_blog
仙台POSSE・ブログ:https://blog.goo.ne.jp/sendai-posse
文:チョンタヒョン(津田塾大学総合政策学部2年)
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