障害者スポーツ ” ≠ ” パラリンピック①
障害のある子どもたちに
スポーツを通じた「出来る」楽しさと「当たり前」を
ー皆さんは障害者スポーツについて問われた時に、何を思い浮かべますか?
パラリンピックでしょうか? しかし、それは「特別」な環境の元で出来る「特別」なことであると、NPO法人アダプティブワールド代表の齊藤さんはおっしゃいます。誰もがスポーツを楽しめる社会を目指して・・・!今回は日本の障害者スポーツの現状を2本立てでお届けします!
<齊藤直さんプロフィール>
日本体育大学卒業。学生時代に、全米障害者スポーツセンターを訪れたことがきっかけで、日本の障害者スポーツの現状を知り、2005年 特定非営利活動法人アダプティブワールドを設立。全国各地の自治体や学校にて、講師を務める。
「人生を変えた、全米障害者スポーツセンターとの出会い」
Tsuda Outreach(以下・TO):まず最初に、アダプティブワールドを立ち上げようと思ったきっかけや理由を教えてください。
齊藤さん:僕は日本体育大学出身で、スキーを専門に学びました。その大学時代に、当時非常にマイナーで、僕自身全く興味の無かった「障害者スポーツ研究ゼミ」に所属したのが、事の始まりです。そこで、ゼミの先生に「アメリカでスキー指導のライセンスが取得出来る所があるんだけど、行ってみないか?」と誘われ、外国でスキーをやってみたい・・・!! その一心で行った場所が「全米障害者スポーツセンター(通称:NSCD)」だったんです。
TO:なるほど、最初はスキー目的だったんですね!全米障害者スポーツセンター(以下、NSCD)とは、どのような場所ですか?
齊藤さん:アメリカコロラド州にある、大規模スキー場の一角に、NSCDはあります。このスキー場がNSCDにドネーション、つまり寄付をしており、そこのオフィスの中で20人のスタッフと2000人のボランティアが働いています。そこでは、知的障害者の乗馬プログラム、ラフティング、目の見えない人たちのロッククライミング、手でこぐ自転車、水上スキーなどなど・・・。日本ではまず見られない教室がたくさんあって衝撃を受けたとともに、ワクワクしたことを覚えています。その指導は、個々のカルテに合わせて行われます。カルテには、コーチとボランティアさんによって、障害・薬・発作などの身体的な情報から、日々の活動内容や次回の方針、目標などが細かく書かれていました。このキメ細やかなカルテにも驚きましたが、もっと凄かったのが、活動の様子でした。すごく楽しそうにスキーを滑っている人がいたんですけど、「あの人が生徒ですか?」と尋ねたら、「いや、あれはボランティアさんで、キャーキャー言って滑っている。後にそろそろついて滑ってるのが生徒だよ。」って言われて。それを見て、普通は逆じゃないか・・・?と思ったんですけれども笑、ボランティアさんが楽しんでいるって素敵なことだし、とても重要なことですよね。
「日本での "逆" カルチャーショックと挑戦」
TO:その後、日本の障害者スポーツセンターに勤めることになったんですよね?
齊藤さん:はい。縁あって、大学卒業後に日本の障害者スポーツセンターに勤務することになりました。僕は日本の障害者スポーツセンターをちゃんと知る前に全米障害者スポーツセンターを見ていたので、障害者スポーツと言えば「全米障害者スポーツセンター(NSCD)」。その頭で日本の障害者スポーツセンターで働いたら、アメリカで受けた衝撃とは180度違う、”逆”カルチャーショックにあいました。日本の障害者スポーツセンターでは日頃は指導などせず監視・管理が主な業務で、指導カルテなども存在しませんでした。そうした中で各教室に来た生徒さんに指導するので、指導はどうしてもいきあたりばったりになります。
TO:そこで、アメリカで学んだことを活かされたんですよね。具体的にどのような活動をされましたか?
齊藤さん:日本でもどうにかアメリカのような障害者スポーツを実現したいと思い、大学時代の仲間の応援を胸に、まずは目の不自由な方々のためのロッククライミング教室から始めました。当時は団体も何も無かったので、飛び込み営業でクライミングジムに何度も何度も通い詰めて、施設をお借りしました。そうして開催した初めてのクライミング教室でしたが、「こんなの初めて・・・!」と生徒たちの喜んだ笑顔を見ることが出来たんです。素直に嬉しかったです。この出来事をきっかけに、これからも続けたい!と活動への思いが強くなり、自分たちで一から見よう見まねでホームページやメルマガを作っていき、準備を進めました。
TO:なるほど・・・。こうして今のアダプティブワールドの原型が出来ていったのですね!ありがとうございます。
「「出来た!!」の喜びを多くの人に 」
TO:現在のアダプティブワールドさんの活動内容について教えてください。
齊藤さん:アダプティブワールドでは現在、主に3つの活動を行っています。障害のある子どもたち向けの個別指導教室、学校の先生方向けに行う指導法の指導、そして大学や専門学校などで行う育成事業です。個別指導教室は、「スポーツの家庭教師」をイメージしてください。この教室では生徒さんの要望を伺って、それが叶えられるように一緒に取り組んでいきます。例えば「来年、他のお友達と一緒に体育祭に出させてあげたい」という親御さんの要望があったとしたら、それの実現に向けて体育の授業内容を一緒に練習する感じです。また、生徒が必ずしも明確な目的を持って来られるわけではないので、その場合は親子カウンセリングを通じて目標を決めます。
TO:カウンセリングではどんなことを提案されますか?
齊藤さん:よく提案するのが、親子で参加出来るマラソン大会や水泳大会への出場です。僕たちは障害者専門大会に出場するよりかは、地域の市民大会で短いコースが設置されているところに、伴走者をつけて出ています。これには意味があります。それは、「障害者専用を作らない」ことです。障害者専用の大会がそもそも少ないということもあるのですが、障害者専用に出ている限り、いつまでも限られた中での活動になってしまうんですよね。障害のある人を含め世の中で、男性がいれば女性が居るように、障害のない人がいれば障害のある人も居る。そして、スポーツは一緒に楽しめる。これを伝えるために、あえて一般の大会・記録会に出るようにしています。
TO:日々の活動で意識されていることはありますか?
齊藤さん:はい、大きく2つあります。1つ目は「出来た!」を体験してもらうことです。人は「出来ない」という言葉を簡単に使ってしまうんですけど、実はすごく強烈な言葉なんですよね。障害者の子どもたちやその周囲は、この言葉によって無意識に活動範囲を狭めてしまっています。そこで僕たちは体験型学習を通じて「出来る」を実感してもらっています。どんなスポーツでも、これを抑えればいい、というポイントがあるので、それを教えることで、「出来た!」の世界に子どもたちを連れていくんです。出来たことが増えると本人は楽しく続けられるし、親御さんも次はこれをやらせたい、と新たな欲求が出てきて好循環が生まれます。2つ目は親子で体験する機会を提供することです。保護者の方々はどうしても子どもたちに、ああしなさい、こうしなさいと言いがちなんですけど、親御さんも一緒に挑戦してもらうことで、子供が何をどんな風に頑張っているのかを感じてもらいます。すると、子どもに対する行動や言動がよりポジティブに変わっていきます。このように、親子で楽しんでもらうことを意識して活動しています。
TO:親子で価値観をアップデートしていく感じが素敵です!我々もアダプティブワールドさんの活動を体験したくなりました。
後編に続く・・・
〜あとがき〜
筆者自身、障害者スポーツについて考えたことが無かったので今回はとても勉強になりました。全米障害者スポーツセンターのお話に驚いたとともに、日本にこのような施設が存在しない実態や、そもそも存在しないことが問題視されていないことに危機感を覚えました。今回の東京オリンピック・パラリンピックをふまえて、今後の課題として、しっかり対策をとっていく必要があると思います。TsudaOutreachとしても、是非アダプティブワールドさんの活動を体験してみたいです。
<アダプティブワールドさんの活動一覧>
アダプティブワールドHP:https://adaptiveworld.org
アダプティブワールドのメルマガ:https://adaptiveworld.org/mailmagazine
アダプティブワールドTwitter:https://twitter.com/AdaptiveWorldTC?s=20
アダプティブワールドFacebook: https://www.facebook.com/adaptiveworld
アダプティブワールドYouTube:https://www.youtube.com/channel/UCpOwXX7fuMrQmsFz5Bly2ZA
文:西野 麗華(津田塾大学総合政策学部2年)
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