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  • 執筆者の写真Tsuda Outreach

母と子の医療を世界に届ける会(IGPC)様


 

途上国の母子に質の高い周産期医療を


周産期医療の技術をノウハウを発展途上国に届ける

 

「途上国のすべてのお母さんと赤ちゃんに、周産期医療を。」という目標で活動している

今回は、当時団体の理事長を務められていた産科医師の小平雄一先生にお話を伺いました


<小平雄一先生プロフィール>


産婦人科専門医

青山学院大学国際政治経済学部卒業

MSc in Management and Implementation of Development Projects,

Global Development Institute, The University of Manchester

NGOにてアフリカ、アジアで緊急支援・開発プロジェクトに従事

鹿児島大学医学部医学科卒業

独立行政法人国立病院機構岡山医療センター 産婦人科

鹿児島市立病院 周産期母子医療センター新生児内科

船橋中央病院 周産期母子医療センター 産科・新生児

独立行政法人国立病院機構霞ヶ浦医療センター 産婦人科

Doctors With Africa Cuamm シエラレオネ母子病院勤務を経て

2019年7月 母と子の医療を世界に届ける会設立する

周産期医療を世界に届けるとは



Tsuda Outreach(以下・TO):まず、団体の概要と主な活動内容を教えてください。


小平先生:名称は母と子の医療を世界に届ける会といいます。ここでいう医療は周産期医療をさしています。周産期医療とは妊娠22週から出生後7日未満までの期間のことで、産婦人科と小児科を足した分野です。世界に届けるというのは、発展途上国に高度な医療を届けるという意味です。


TO:ありがとうございます。発展途上国にとって周産期医療とはどういったものですか?


小平先生:日本では、周産期医療は当たり前のようですが、途上国にはない分野であり、非常に新しい分野になります。具体的にはNICU(新生児集中治療室)などが周産期医療に当たりますが、活動の拠点であるシエラレオネには、元々ありませんでした。


TO:そうだったんですね、NICUをシエラレオネなどの途上国に設置した時、どういった部分で苦労や難しさを感じましたか。



小平先生:まず、24時間、365日使える電気や水がないです。NICUは特に沢山の機械が必要ですが、電気がないと動きません。また、医者の数も少ないです。


TO:それは大変ですね、このような環境で周産期医療を設置するのは本当に素晴らしいです。一体どのような工夫をされているのですか。



小平先生:まず、電気や水は蓄電や貯蔵をしていますが、基本的には機械に頼らず、より簡単なもので代替しています。例えば、電気を使わなくても火を起こしてお湯を沸かし、赤ちゃんを湯たんぽのように温めることが可能な保育器を開発中です。

また、妊婦健診で使う超音波診断装置(エコー)はとても高価なものですが、スマートフォンに接続すれば使用できる超音波プローブを使用しています。。


TO:素敵な工夫ですね。スマートフォンを使ったエコーについてもう少し詳しく教えてください。


小平先生:スマートフォンにプローブを繋げ、お母さんのお腹に当てるものです。スマートフォンのアプリを使って、画面をエコーのスクリーンにします。我々が使用しているのはこちらのタイプです。別のタイプは、はイスラエルの会社が作ったもので、スマートフォンを機材に差し込んでお腹に乗せて、そのまま見えるようなものです。


TO:そうなんですね、興味深いお話をありがとうございます。

 


スマートフォンを使用したエコーの様子



日本とシエラレオネの違いとは


TO:途上国シエラレオネと日本では多くの違いがあると思いますが、具体的にどのような違いがありますか?


小平先生:妊婦さんや赤ちゃんがかかる病気に違いがあります。

感染症やマラリアにかかって命を落とす確率が高いです。今も私の病院で何人かは入院していますけど、非常に助けるのは難しいですね。1歳を過ぎるまでにあらゆる病気の感染症と闘ってきますから、大体5歳を過ぎるまでに10人に1人は死亡します。


TO:そうなんですね。赤ちゃんの命を守っていく仕組みはありますか?


小平先生:まずは、定期的な検診をしています。

日本でも年齢別の定期検診はあると思いますが、主には予防接種や発育確認ですよね。シエラレオネでは、村まで出ていって、子どもたちを集めて、マラリアにかかってないか、発熱していないか、下痢していないかなどをスクリーニングしていきます。

これも日本と大きく違うところですよね。


TO:なるほど、検診にも違いがあるなんて驚きです。


TO:ここから先は読者の皆さまにも一緒に考えていただきたい部分になります。


TO:先ほどエコーの話がありましたが、シエラレオネでエコー検査をした際に赤ちゃんに疾患があることがわかった場合、日本と対応が違うということはありますか?


小平先生:今まではシエラレオネには、エコーがないのでわからないまま出産することが当たり前でした。ですが、今はエコーでお腹の中にいる段階で赤ちゃんがどんな状況かがわかります。つまり、赤ちゃんの奇形や障がいが判明したとき、「親が赤ちゃんの命をどうするのか」という選択を迫られるようになりました。

ただ、シエラレオネでは日本と同じような対応をすることは少ないです。救える命であっても全て救いきらないのがシエラレオネと日本の違いでもあります。


TO:親が決断を迫られるということは世界共通だと思いますが、伝える時に何か意識していることなどはありますか?


小平先生:私は、シエラレオネではありのまま伝えることを意識しています。医者の伝え方で親の考え方も変わってくるので、「日本では助かりますよ」と伝えることできる症例であっても、医療が完璧に整っていないこちらでは、事実をありのままを伝えることが大切です。

また、シエラレオネではお腹が大きくなってから検診に来たり、分娩の時になって病院にくるいわゆる未受診妊婦さんもとても多いので、その場での決断が多いです。

そのため、そもそも早い段階の検診でわかり、両親が決断する事例が少ないので、そのまま何もしないことが多いです。帝王切開が少なくて、経膣分娩が多いのは選択肢がないからです。逆に日本では、医療が進歩しているが故の悩みもあります。




TO:医療が進歩しているからこそ増える悩みがあるということですね。難しい問題ですね。



TO:新型コロナウイルスの影響はシエラレオネではどれほどありましたか?



小平先生:新型コロナウイルスはたくさんの人が罹りました。統計では明確な数字として罹患者数や死亡者数は出ませんが、この前も新型コロナウイルスの新しい株が中国で流行った直後に感染者の増加がありました。アフリカの若い人は小さい頃から色んな病気にかかっていることもあり、新型コロナウイルスに罹ってもなくなることは少ないと思います。西側諸国が推し進めた新型コロナウイルス対策は、途上国の実態に合わせることもなく、多くの国々で導入されました。その結果、新型コロナウイルスに罹った人は妊婦であって、専門病院で受けつくてもらえない、あるいは一刻を争う状況でもすぐに受診ができなかった、などの理由で死亡症例が増えたとの報告があります。。日本などの西側諸国が自分たち基準で作った政策が、条件の違うアフリカにそのまま導入されたことで、弱い人がたくさん亡くなったと言えると思います。


TO:ユニセフがFGM(女性器切除)を根絶するためにさまざまなことをやっていますが、IGPCさんではFGMに対して何かアプローチしていることはありますか?


小平先生:FGMをしていると、経膣分娩をした際に裂けたり、痛くて泣き叫んだりすることがあります。裂傷部分が適切に処置できなければ、出血多量で死んでしまうこともあります。しかし、私の方針は文化的な事柄に価値判断、つまり善悪の判断をしないということにしているんです。我々は医療からアプローチしているのであって、文化にアプローチしているわけではありません。FGMははお産のためにはしないほうがいいかもれませんが、その価値判断をすることはありません。

価値判断は善悪を決めることです。FGMだけを取り出して、「悪いことだ、女性の人権を踏み乱している」と言うのは簡単です。しかし、FGMはそれを取り巻く文化的、歴史的、社会的な背景を考慮しないと、その本当の意味はわかりません。時間をかけて相手を知る努力もせずに、切り取った事実のみを批判をするという態度は大いに慎むべきであろうと考えています。、


TO:文化からアプローチをかけるのか、医療からアプローチをかけるのかを決めることで、自分たちに今できることを考えているんですね!


最後に


TO:コロナウイルスも段々と収まってきましたが日本からのスタッフはどれくらいいるのでしょうか?また、現地の方に健康意識の教育をしてあるとありましたが、どのようなことを具体的に行っているのでしょうか?


小平先生:現在働いている日本人スタッフはドクター1人とナースが5人、現地の人は20人くらいです。現地のスタッフは、お産をとる練習だけした見習いナースが多いです。

 健康意識の教育というのは日本では当たり前のことも多いです。たとえば薬を処方されたらそれを決められた通りに全部飲むとかですね。シエラレオネだと少し薬を飲んで残りは売ってしまうことも多いです。また、医者の数を増やそうという現地の政策のせいで医師としての知識や技量を十分に養う期間が短いという弊害がおこっています。。彼らだけを責められるべきではなく、むしろ正しい知識を知らないからこそ、彼らは知識に貪欲です。ですから、彼らに医学の正しい知識と技術を教えるということもしています。



TO:では、最後に小平先生は今後の展望などはありますか?


小平先生:我々が目指しているのは、お金のある人も、お金のない人も、日本にいても、シエラレオネにいても、生まれてきた赤ちゃんを見ながら、「おめでとう、よかったね」と言い合える、そんなつながりを世界中で築いていくこと、です。

我々のミッションである周産期医療を世界に届けることは、その第一歩でしかありません。日本では当然のように無事に生まれてくる命が、ここでは数多く死んでいきます。

無事に産まれることが奇跡みたいなこの国で、産まれてきたことを日本にいる誰かと喜びあえる世界。

国を超えて、海を超えて、世界中で「おめでとうと言い合える世界」をつくるのが、我々の最終的なゴールです。


TO:私たちも生まれたらおめでとうと言い、またこの団体がより広く知られるようにしていきたいです!小平先生今回はありがとうございました!



〜あとがき〜


知らない話が多く、世界の広さを知りました。日本には周産期医療が進んでいるが故の悩みもあると知り、一概に良い悪いは決められないという難しさを感じました。自分たちがいつか妊娠した際にこの活動についてより深く感じ取ることができるのかもしれないと思いました。遠く離れた地の人の出産のこともおめでとうと言い、この活動をより広くの方に知ってもらえるようにしたいと思います。



 

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文:冨永友惟(津田塾大学総合政策学部3年)

  岡本萌花(津田塾大学総合政策学部2年)

  榊原千尋(津田塾大学総合政策学部2年)

  並木優衣(津田塾大学総合政策学部2年)

  中井英理(津田塾大学総合政策学部1年)


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