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  • 執筆者の写真Tsuda Outreach

特定非営利活動法人Japan Hair Donation & Charity(JHD&C・通称ジャーダック)様


 

ヘアドネーションの功と罪

なぜウィッグが必要なのか?

ヘアドネーションから考える、チャリティへの向き合い方

 




 ー「ヘアドネーション」に功と罪?

皆さんはヘアドネーション、通称”ヘアドネ”をご存知ですか?ヘアドネーションは髪の毛を寄付する活動であり、その一部が医療用ウィッグとして利用され、必要な方の元へ届けられています。

日本でこのヘアドネーションを言葉ごと広めたのが、今回取材させていただいた、

特定非営利活動法人Japan Hair Donation & Charity(JHD&C・通称ジャーダック)さんです。しかし、この活動には功と罪、つまり明るい点と暗い点があると、代表の渡辺さんはおっしゃいます。

今回は活動内容以外にも、「そもそもなぜウィッグが欲しいと思うのか?」という本質にも迫ります。


 

渡辺貴一さんプロフィール>


特定非営利活動法人 Japan Hair Donation & Charity(JHD&C・ジャーダック)代表。1971年、宮崎県生まれ。美容師。1995年、ニューヨークのトップカラーリストに師事、研鑽を積む。帰国後は日本初のカラーリスト(ヘアカラーのスペシャリスト)として活躍。2008年、大阪市内に自身のサロンをオープン。翌2009年、日本初のヘアドネーション団体・JHD&Cを設立。髪を伸ばして切るだけという気軽さから、年間10万人以上の人が参加するボランティアとなっている。



「ヘアドネーションは髪の毛への”恩返し”」

Tsuda Outreach(以下・TO):まず最初に、ジャーダックを立ち上げようと思ったきっかけや理由を教えてください。


渡辺さん:僕は元々美容師でして、若手の頃にニューヨークで修行していたことがあるんです。当時は珍しいヘアカラー専門の「ヘアカラーリスト」として仕事していました。その頃のニューヨークでは、路上でホームレスの方が空き缶を持って街の人に小銭をもらい、生活費を稼ぐみたいな光景が当たり前に広がっていました。そこで小銭をあげる人もいれば、そうでない人もいますし、小銭をあげた人が慈善家ぶるようなこともない。皆さん、とにかく自然にチャリティをする文化があったんです。それが、帰国後も頭の片隅にあって。


TO:なるほど、それがどのようにヘアドネーションの活動につながるのですか?


渡辺さん:2008年に独立をして自分の美容室を出すことになり、その時に、他の美容室と何か差別化できないかな、と考えていました。と言うのも、実は美容室って国内に25万件以上あるんです。コンビニが各社合わせても5万件超くらいなので、美容室はコンビニの4.5倍です。


TO:え、美容室ってそんなにあるのですか!


渡辺さん:そうなんですよ。こんなにたくさん美容室がある中で、お金儲けのためだけに、お店を増やすのは、面白みもないし、何か違う形で出来たら良いのではないかな、と。髪の毛でお金儲けをしているので、その分「髪の毛に恩返し」できるようなことをやろうよ!となりました。そこで、どんな活動をやるか考えた時に、ニューヨークでの経験を思い出しました。アメリカでヘアドネーション団体が存在することを見聞きしていたので、日本国内では誰も取り組んでいないし、それでは我々がヘアドネーションを始めてみよう!と思い立ちました。


TO:確かに、髪の毛を切る場所で髪の毛を寄付してもらうのは、とても親和性が高いことですよね。ありがとうございます。


活動当初のお写真↑




「1つのウィッグに50人分以上の髪の毛?!」


TO:活動内容の1つである、ウィッグ作りについて教えてください。


渡辺さんウィッグ作りにはゼロから挑戦しました。ジャーダック以前にヘアドネーションに取り組む団体は国内に存在しなかったので、本当に何のノウハウもありませんでした。最初は様々な所にお声がけさせていただき、ウィッグを作ってくださる方を探したり、毛髪を確保したりしました。幸い美容業界でしたから、人づてになんとか繋がっていった感じです。それでも、最初のウィッグ提供までに開始から3年かかったので、大変でしたね。認知度も知名度もなかったので、髪の毛も3年がかりで現在1日で届くぐらいの量が来ました。


TO:そうだったんですね。髪の毛を寄付してからウィッグに至るまでは、どのような工程があるのですか?


渡辺さん:よく勘違いされているのですが、そもそも1人分の髪の毛ではウィッグを作れないんです。作るには平均値で50人分ぐらいの髪の毛が必要になります。またロングヘアのウィッグでは、100人分以上必要になることもあります。加えて、1人分の毛の中には、短い毛がいっぱい入ってるんですよ。規定の31cm以上の毛束だからと言って、その全ての毛が使える訳ではありません。毛束はたいてい先細りになっていて、31センチ以上の部分は、皆さんが想像される以上に少なくて、それ以外の短い毛はウィッグとしては使えません。1個のウィッグは少数精鋭の集まりなんです。


TO:それは本当に少数精鋭ですね。私自身、31cmまで頑張ろうと思っていたのですが、足りない気がしてきました。


渡辺さん:とはいえ、ヘアドネーションは自主的なものです。髪の毛は気合や念力で頑張った分だけ早く伸ばせるというものではなく、自然に伸びるものなので、自分が切りたいタイミングで無理のないようにするのがいいかなと思います。



ドネーションで髪の毛を切る様子↑



「活動が広がった、2つの転換期」


TO:現在に至るまでに、どんな出来事があったのですか?


渡辺さん:ジャーダックを語る上で、ターニングポイントは2つあると思っています。1つは東日本大震災、もう1つは著名人の方がヘアドネーションに取り組んでくださったことです。1つ目の震災については、2011年の震災以降、人々の中に「誰かの役に立ちたい」思いが急速に芽生えていきました。そこにSNSの普及も相まって、寄付が少しずつ増えていったと思います。多くのチャリティとは異なり、ヘアドネーションは「自分の髪の毛を寄付する」という特徴があります。お金の寄付だと少しハードルが高いと思いますが、髪の毛なら意図せずとも伸びていくので、皆さん取り組みやすいんですよね。現状、10代からの寄付が4割を超えているので、お子さんや学生さんにとって「初めて取り組むチャリティー」として、ヘアドネーションが選択肢に入っていると思います。


TO:なるほど。確かに、最近SNSで子どもや学生がヘアドネーションをした、という記事や動画を目にする機会が多いと感じています。


渡辺さん:そうですね。そして、2点目のターニングポイントは、2015年に著名人の方がヘアドネーションに取り組んでくださったことです。その方が、Instagramにヘアドネーションの活動報告を投稿してくださり、多くの方の目に留まることとなりました。当時、100万人くらいフォロワーがいらっしゃったので、反響は本当に大きかったです。2016年以降は活動の規模も倍になりましたし、取材や講演会の依頼も多く寄せられることとなりました。


TO:一気に倍ですか!それは凄いですね。


渡辺さん:私も本当に驚きました。今でこそ「ヘアドネ」という略称もありますが、それまでは、ヘアドネーション自体が全く知られていなかったので、このような様々な出来事を経て、我々が言葉ごと普及させていったとも言えます。今では1日に500件程度、髪の毛が届くようになりました。





「活動停止を踏み止めた、たくさんの応援メッセージ」


ドナーさんからのお手紙↑



TO:コロナ禍での活動は、いかがでしたか?


渡辺さん:ジャーダックでは事務所を閉鎖して、ヘアドネーションの受付を停止することとなりました。そのため、2020年はほとんど活動できませんでした。具体的には、ウィッグが作れない、企業さんのタイの工場も閉鎖、トリートメントの加工もできないといった具合です。何もできなかったし、チャリティは無理してまでやることではないので、活動をやめようかと思ったんですよ。私自身も自分が生きていくのが大事だし、それ以上に家族が大事なのでね。ただ、あまりにも、ドナーさん(寄付者)やレシピエントさん(寄付の受け手=ウィッグを受け取る人たち)からたくさんの応援メッセージをいただいたんです。「本当に大変ですけど頑張って続けて欲しい」「コロナで大変でしょうけれども、尊い活動なのでぜひ続けてほしい」など、簡単にやめられないな、と感じました。


TO:確かに、チャリティは自分が心身ともに健康であってこそ出来る活動ですね。


渡辺さん:そうです。それに、そもそも、コロナの影響はジャーダックに限った話ではないですよね。コロナが始まった当初のことを思うと、「寄付をください」なんてやっぱり言えないですよ。この活動は皆さんの寄付があってこその活動ですが、その寄付者の皆さんが大変な中で、さらに支援をお願いするのは気が引けることでした。だから、応援メッセージは活動継続への強いインセンティブになりましたし、我々でもリモートワーク推進やチャリティファンディング、デジタル受領証の試みなど、出来ることから少しずつ再開していきました。


TO:なるほど、様々な困難を乗り越えて、今があるのですね。ありがとうございます。



寄付された髪の毛↑




「ヘアドネーションの”功”と”罪”」


TO:最後に、この活動やヘアドネーションに対する思いを伺いたいです。


渡辺さん:そもそも、「なぜヘアドネーションをするのか?」を考える必要があると思います。今の社会は髪の毛がある人がマジョリティ、多数派です。その反対で、毛髪を持たない方は、もう圧倒的マイノリティ、少数派じゃないですか。その「圧倒的マイノリティに対して、マジョリティ側がウィッグを提供すること」とはどういうことか?を常に考える必要があると思います。


TO:なるほど、こちらが善意でヘアドネーションをしていたとしても、それが多数派からの押し付けや上から目線になっていないか?を考える必要がある、という意味ですね。


渡辺さん:そうです。「あなたたち、このウィッグでも被って、髪の毛があるふりをしなさいよ」、という側面はないか?を、やはり考え続けています。我々にそんな気持ちはなかったとしても、そういう側面は否めないんじゃないかと。だから僕は功罪と言いました。ただ、誤解のないように注意していただきたいのは、ウィッグを受け取られている皆さんは、とても喜んでくださっています。これは大前提です。


TO:チャリティに取り組む上で、独りよがりにならないことは大切な視点ですね。他に、読者に考えてほしい印象的なエピソードはありますか?


渡辺さん:5、6歳の子が夏にウィッグをかぶって保育園なり学校に通うことを想像してみてください。その子たちは学校に8時間ぐらい行って帰ってきて、ただいま!と玄関を開けたら、靴を脱ぐより先にウィッグを投げ捨てるんです。そんな大変なものを、なぜ5歳6歳の子どもたちが被る必要があるのか?考えてみてください。


TO:ああ、確かに・・・。夏は暑いから余計に頭が蒸れちゃいますし・・・。


渡辺さん:そうです、本当はきっと嫌なんだと思うんです。被る必要がないのであれば、ウィッグを被りたくない、と考えている人達は少なくないと思います。それをなぜ、その子たちが被るのか?という部分に問題があるのです。世の中には様々な髪型の人がいますよね、ショート・ロング・ボブ・黒髪・金髪など。これは、とてもパーソナルなもので、基本的人権で守られている表現の自由の1つでもあります。それを、逐一他人がどうこう口出しすべきではない中で、なぜウィッグでなきゃいけないのか。ウィッグが悪いわけでもないし、夏が悪いわけでもない。でも、夏場は特に暑いから、ウィッグをつけない状態の方が気持ちいいよねと感じていたとしても、そのままスキンヘッドで外を歩けないのは、なぜでしょうか。そもそもの構造的な問題を考える必要があると思います。


TO:すごく本質を捉えた問題提起で、ハッとさせられました。私も、ただ慈善家気取りでヘアドネーションをするのではなく、ウィッグを使用する人の気持ちを考えた上で取り組もうと思います。ありがとうございました。



届けられるウィッグ↑





〜特定非営利活動法人ジャーダックさんからメッセージ〜


「誰かのために」と行動してくださる方が大勢いらっしゃることは大きな希望であり、私たちも勇気をいただいています。

その上で、ヘアドネーションを知ってくださった皆さんにお願いです。


ー子どもたちは誰のために、何のためにウィッグを使うのか?


繰り返しになりますが、小さな子どもたちがウィッグを必要とする理由について、ぜひ想像してみてください。「ヘアドネーションの一歩先」について深く考えることが、誰もが生きやすい社会につながると信じています。




〜あとがき〜


筆者自身、今夏にヘアドネーションをする予定なので、とても勉強になりました。SNSやニュース記事をきっかけに取り組んでみよう、と軽い気持ちで考えていたのですが、「そもそもウィッグをなぜ被る必要があるのか?」という代表の渡辺さんの問題提起は、とても本質的なもので、考えを改めるきっかけとなりました。お坊さんや球児のスキンヘッドは問題視されないのに、街中で脱毛症の人がいた時に、後ろ指を刺されかねない社会を、多数派の人々は今一度見つめ直す必要があると思います。

 

<ジャーダックさんの活動一覧>


ジャーダックHP:https://www.jhdac.org/


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文責:西野麗華(津田塾大学総合政策学部3年)




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